植物
洋ラン ようらん
Orchids
  • ラン科の植物のうち、明治以降にヨーロッパなどから日本に持ち込まれ、寒さに弱く、温室の中で育てることが適当な植物群。
  • これに対し、中国や日本に自生するものを東洋ランという。
  • 洋ランは栽培が容易で、生産性の高い種類は鉢物や切り花用に営利生産されるが、一方、栽培の難しいものや大衆受けしにくい種類などは愛好家が収集、栽培しており、洋ランの種類は膨大な数にのぼる。
  • 歴史
    • ラン科の植物が文献上に登場するのは前6〜前5世紀(日本−縄文時代後期)、中国の孔子の時代が最初といわれる。
      • また、野生種の中から変わりものを見つけ出し、それを栽培した記録は同じく中国の宋の時代まで遡ることができる。
    • しかし、今でいう洋ランの栽培が始まったのは比較的新しく、イギリスが世界各地から植物を収集した大航海時代以降のこと。
      • 18世紀(日本−江戸時代中期)には、西インド諸島からシランの仲間が、そして中国からはカクチョウランやスルガランなどがイギリスにわたっている。
      • 19世紀(日本−江戸後期〜明治時代)になり、ブラジルから渡英したカトレアが1824年(江戸時代後期)に初めて花を咲かせ、その花の艶(つや)やかさからラン科植物の収集熱は一気に高まった。
      • その後、イギリスの貴族や富豪を目当てに、世界の熱帯各地からラン科植物が持ち込まれ、当時まだ高価だったガラス温室の中で栽培されるようになり、そのブームは欧州各国に広がった。
      • 品種改良も19世紀半ば(江戸時代晩期)から始まっている。
  • 日本
    • 日本への渡来は1877(明治10)年以降のことであり、1894(明治27)年に新宿御苑(東京都新宿区)に温室がつくられ、その中に洋ランが展示されてから、日本でも広く知られるようになった。
      • そのブームは欧米と同じく富裕層の間に広がったものであり、それが大衆化を果たすのは第2次世界大戦後のこと。
      • そのきっかけの一つとなったのが1960(昭和35)年にフランスで発明されたメリクロンによる増殖技術。
      • メリクロン技術は1963(昭和38)年にアメリカで大量増殖技術として確立され、その後まもなく日本にも導入された。
    • 現在、日本は世界でも有数の洋ラン生産国になり、どこの花屋にも洋ランの鉢物や切り花が並ぶようになった。
      • 東京ドーム(東京都文京区)を始め各地で洋ラン展が開催されているが、これも洋ランの大量増殖が可能になり、大量生産された洋ランが安価に供給されるようになったことによる。
  • 分類
    • 現在、営利生産される洋ランは、ファレノプシス(コチョウラン)とシンビジウムの2つの園芸品種群が中心になっている。
      • それに続いてデンドロビウム属のノビル系とデンファレ系、オンシジウム、カトレア、ミルトニア、パフィオペディルム、バンダなどの各園芸品種群が生産されている。
    • 一部の種類では海外で株を育成し、それを国内で製品化する仕組みができあがっている。
      • ファレノプシスは中国や台湾から大量の苗が輸入されており、デンファレやバンダの苗はそのほとんどがタイなどで生産されている。
  • 登録
    • サンダーズ・リスト
      • 洋ラン類の交配は、歴史が新しいこともあり、その記録のほとんどが残っている。
      • 1895(明治28)年に、イギリスのサンダー社が始めた新種の登録制度は、その後、イギリスの王立園芸協会に引き継がれたが、そこには、新種の名称から交配に用いた両親の名前、交配の年月、交配を行った人の名前などの詳細な記録がある。
        • そのため、現在入手可能な園芸品種のほとんどは、交配の過程を原種までたどることができる。
        • この登録制度はサンダー社にちなんで、サンダーズ・リストと呼ばれ、世界中の育種家は現在も新しい交配を行うと、そのすべての記録をサンダーズ・リストに登録することになっている。
    • 洋ランの命名とラベル
      • 洋ラン類は複雑な交配によって生まれるものが多く、その命名には多くの約束事がある。
        • ラベル(名札)の表記についても一定の約束事にしたがうのが普通。
        • 洋ランのラベルは、例えばCym. Alexandri ‘westonbirt’ FCC/RHSのように属名、交配名、個体名、入賞記録の順で表記されている。
        • 表記はふつうアルファベットだけであるが、アルファベットにカナ読みをつけたものが併記されることもある。
      • 属名
        • 属名では、カトレイトリア属(× Cattleytoria)のような属間交配によって生まれた人工属には新しい属名が与えられ、ウィルソナラ属(× Wilsonara)のような3属間以上の他属間交配属は名前の最後に-araを付けることになっている。
        • 属名を省略して表記する場合は省略形が決まっている。
          • 例えば、シンビジウム属(Cymbidium)ではCym.、デンドロビウム属(Dendrobium)ではDen.と表記する。.
      • 交配名と個体名
        • 交配名は特定の交配に与えられる名前で、その交配によって生まれた子株はすべてが同じ交配名で呼ばれる。
        • 個体名は、交配によって生まれた子株の中から選抜した一つの個体に与えられる名前。
      • 入賞記録
        • 入賞記録は、各国にある審査会で優秀な成績を修めた個体に対して与えられた賞名と、授賞審査会名が略称で併記される。
          • FCC/RHSは、FCCがFirst Class Certificateの略で90点以上を表し、RHSはThe Royal Horticultural Societyの略でイギリスの王立園芸協会のことを指している。
  • 参考:エンカルタ2007
神代植物公園(東京都調布市)

2010/9/11
2010.10.14

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