- 日本では、そのうち酒の製造をおもな目的とすることを、酒造といっている。
- 穀類や芋類のデンプンだけでなく、乳、魚類の身などの動物性原料を含めて、発酵させて製造される食品を発酵食品という。
- 日本では、古くから麹を用いて様々な発酵食品を生みだしてきた。
- 日本では古代には、醸造することを「かもす」といったが、これは、女性が米をかみ砕いて、唾液に含まれるデンプン分解酵素の作用を利用して発酵させたところから、かむが転化したものという説がある。
- 環太平洋の各地域には、口嚼酒(くちかみのさけ)を作る方法が分布し、女性とくに処女の唾液で酒を作っていた。
- ヨーロッパのワインは、処女がブドウを踏みつぶして、酒造が始まったといわれ、風習としての共通性をうかがわせるが、とくに女性が効率的な醸造ができるという科学的な根拠は乏(とぼ)しく、原始的な信仰からと考えられるという。
- 醸造の進歩には民族独自の信仰や生活習慣に加え、気候風土が密接に関係する。
- 一般的に冬に多湿ではあるが、温度の高い夏に乾燥している地中海気候の地域ではカビ類の成長は難しく、麦の発芽時に生成する糖化酵素を応用したビール製造が盛んになった。
- 高温多湿な日本、中国、東南アジアなどの照葉樹林帯では、微生物の繁殖に適していることから、カビ類から生産される糖化酵素を応用した酒の醸造が主流となった。
- ミクロフローラ
- 発酵食品は、古くから産地によって独特の風味があることが知られている。
- ワインや日本酒でも特定の産地で、一定の製法でつくられたものが、高級品とされてきた。
- その要因としては、原材料の違い、水質の微妙な差、気候などが考えられるが、微生物の種類の違いも大きく影響している。
- 特定の場所で、微生物が分布して繁殖している種類の状態を、ミクロフローラ(Microflora)というが、古くからその状態を大きく変化させないようにして、醸造工程が考えられてきた。
- ヨーロッパのワイナリーが、換気のよくないところにカビだらけの状態で製品を保管したり、日本の甘酒づくりなどでは地下に麹蔵を設けたり、フランス産のロックフォールチーズは、洞窟で製造されるというように、微生物の生態系を崩さないようにしている。
- 醸造所は、果樹園や花の多い場所を避けて、外から有害な菌類が侵入しないように配慮している。
- 醸造の技術的進歩は、また、腐敗の原因となる不用の微生物をいかに除くかという戦いでもあった。
- 醸造製品の種類
- 酒
- 酒類の製造では、蒸し煮して組織を柔らかくした穀類に含まれるデンプンを微生物や唾液などに含まれるアミラーゼなどの糖化酵素により糖に分解し、同時にコウジカビや酵母の作用でアルコール発酵を行っている。
- 味噌・醤油
- 塩を多く用いる味噌や醤油の醸造では、蒸し煮した穀類に、コウジカビ、各種の乳酸菌、耐塩性酵母などを作用させ、含まれるタンパク質やデンプンを適当に分解して、独特の味覚をつくりだしている。
- 酢
- 酢の醸造では、酢酸菌の作用によってアルコールを酢酸にまで酸化させて製造する。
- 一般的にはアルコール発酵後に濾過し、ついで酢酸発酵を行うが、九州地域の黒酢醸造では糖化、アルコール発酵、酢酸発酵を同一の容器で行うため、各種酵母などの成分が入り込み、独特の風味が得られる。
- 日本酒
- 醸造食品の代表である日本酒では、白米に対しておおむね吟醸は60%、大吟醸では50%以下の精米歩合で精米した、ほぼ純粋なデンプンを用いて醸造しているため、いわゆるくせのない、飲みやすい酒ができる。
- 純米酒は、70%以下の精米率のものを用いて醸造するもので、個々の原料米が持っている特質を反映している。
- 純米の文字を書いていない吟醸、大吟醸酒では10%以下の範囲で醸造用アルコールの添加が許可され、いわゆる切れの良さを決めている。
- 新技術
- 近年ではバイオテクノロジーを駆使して、各種の酵母の望ましい形質だけを採り入れた、新規の酵母や微生物の生産が可能となり、醸造は飛躍的発展を遂げている。
- 酒造りの達人である杜氏のノウハウを研究して、ロボット作業による清酒の製造技術に応用することも研究が進んでいる。
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