NHKで2006年(平成18)8月4日に『NHKスペシャル 21世紀の潮流 ラテンアメリカの挑戦 格差からの脱出 ブラジル・チリ』を見た。
そのブラジルについての感想。

■破綻国家の歴史
 ブラジルはかつて原油の8割を輸入に頼っていた。
しかし、1973年(昭和48)のオイルショックがきっかけで、アルコールの一種であるエタノールによる燃料の開発を開始した。
また、その頃、先進国への仲間入りを目指していて、アメリカから巨額の借金をした。
しかし、その後、アメリカが高金利政策に転換したため、負債を抱え、ブラジルは破綻国家と呼ばれるようになる。

■貧富の拡大
 解決策としてIMF (International Monetary Fund 国際通貨基金) から借り入れたが、条件として「新自由主義」と呼ばれる、規制緩和、民営化、多国籍企業への市場開放などの政策を行う。
結果として、企業の大規模リストラが行われたため、失業者が増え、都市のスラム化が起きた。
また、アメリカによる経済と軍事のグローバル化と相まって、経済的には上向くが、富めるものは富み、貧しいものはますます貧しくなるという「二極化社会」に陥った。

■エタノール
 エタノールはサトウキビの絞り汁を発酵させることにより製造され、現在、ブラジルでは、車のガソリンの20%に混ぜることを義務づけている。
最近は「フレックス車」という車が開発された。
これは、エタノールだけでも、ガソリンだけでも、その両方を混ぜたものでも走ることができる。
欧米の車メーカーはフレックス車の開発に力を入れているという。
また、ブラジルではエタノールで飛ぶ小型飛行機の開発にも成功した。

・・・ちなみに純粋なエタノール(エチルアルコール)は飲むことができる。
ところが同じアルコールの一種であるメタノール(メチルアルコール)は毒性が強いが、日本において戦後の貧困の時期、これを酒がわりに飲んで、失明した人が増えた。
危険でも酒が飲みたかったのだ。

■エタノールの優位性
 エタノールの価格はガソリンの半額であることもあり、急速に普及が進んでいる。
また、エタノールは燃料として燃やした時に二酸化炭素を作り出すが、これはサトウキビが育成時に二酸化炭素を吸収した分を放出しているので、循環しているだけ。
つまり二酸化炭素は増減していないので環境に優しい。

■サトウキビの優位性
 エタノールはサトウキビだけでなく大根の一種であるテンサイや、トウモロコシからも作ることができる。
テンサイは主にヨーロッパで、トウモロコシはアメリカ、中国で、サトウキビはブラジル以外にインド、オーストラリアで生産されている。

しかし、サトウキビの優位性はその価格にある。
トウモロコシの半分、テンサイの3分の1という値段の安さである。

■貧困の解消
 現在、ブラジルは世界最大のサトウキビの生産国で、世界の3分の1を生産しているが、政府はサンパウロ州を中心として、東京都の14倍という広さの畑を新たに作り、100万人の雇用を作り出す計画を進めている。
これにより賃金は3倍になるといい、貧困地帯からの人口が大移動している。
労働者のインタビューでは、「今までは何の夢も持つことができなかったが、今は将来を考えることができるようになった」、という。
以前は都市のスラム地区に貧しい人たちが流れ込んでいたが、貧困農村部と都市の間にサトウキビ畑を作ることによって、貧困層を吸収することができる。

■国家戦略
 ブラジルはこのように、サトウキビから燃料を作り出すことによって、”市場の動向で価格が左右される農業”と”能率の追求により、労働条件の悪化と環境破壊を招いている工業”のそれぞれのマイナス面を補うという「アグリエネルギー国家戦略」という”農業と工業の一体化”を押し進めている。
ちなみに”アグリ”は”農業”の意味。
また、遺伝子組み替えにより、更に効率よくサトウキビからエタノールを抽出できる研究や、人工衛星を使って、それぞれの土地に合った品種は何かを即座に判定できるシステムを開発中である。

■世界市場
 ”ブラジル一国がエタノールの生産を独占するのでは、市場は限られる”という考えの元に、積極的に外国に技術を伝えている。
2003年(平成15)に就任したルーラ大統領は、去年、サトウキビ生産第2位のインドを訪問し、連携して増産を図ることを決めた。
一方、海底油田の開発も行っており、原油の完全自給を達成したため、今年、世界第2位の原油消費国である中国に原油を輸出し、また海底油田の共同開発することを決めた。
このように”資源・エネルギー”を外交カードとして、インドや中国ばかりでなく、東南アジア、ロシア、EUと、地球上の可能性のあるすべての場所でサトウキビの生産をひろげ、エタノールの世界市場を作り出そうとしている。

■アメリカは
 アメリカも最近、大統領が国家戦略としてエタノールの生産を強化することを発表した。

■感想
 最近のニュースで、今まではサトウキビといえば砂糖が採れる植物だったが、今やエタノールを採るための植物に変わり、そのため砂糖が不足する状態になっているという。
そのため菓子業界にジワリジワリと影響が出ているらしい。
世界がエタノールのためにサトウキビを使うのであれば、沖縄などで砂糖のためにサトウキビを増産すればいいのではないか、と素人考えで思ってしまうがどうなのか。

 アメリカなどの車市場で日本はガソリンとバッテリー駆動併用のハイブリッド車で優位を保っているが、これからはエタノール車がジワジワ増えてくるのでは、と思う。
日本メーカーは研究は行っているとは思うが。

 ブラジルは国家戦略により貧富の差がある二極化社会から脱出しようとしているが、日本はブラジルが二極化社会になったのと同じ理由によって、二極化社会に突入していくように思えてならない。

 ブラジルやアメリカ、中国など明確な国家戦略があるようだが、日本は私が知らないだけかもしれないが、国家戦略があるように思えない。これからどうなっていくのだろう。
この番組で、ブラジルに対しては希望が見えたが、日本のことには触れていないにも関わらず、日本に対して不安を感じてしまう内容だった。